「Polaroid 580」
高校時代に 友人同士で定期的に開いた ビートルズの曲名を冠したフリーマーケット。そのフリーマーケットで最後まで売れずに残っていたのが、友人の出品物の黒いカメラだった。好きな物や風景を正方形の白いフレームで切り取り、それを壁に飾ることができるのなら、サイズはずいぶん小さくなるけれど、インテリアショップで売られているポスターより欲しい物に近くなるかもしれないと思い、友人に半ば強引に譲ってもらった。
進学先の鹿児島で、書店と呼ぶにはあまりに多くの種類の商品を扱う販売のアルバイトを始めた。朝晩がかなり肌寒くなってきた頃に街でよく見かけたイベントのポスターは、普段あまり映画を見ることのない僕がかろうじて知っていたフランス映画のポスターをサンプリングしていて、何か素敵なパーティが始まる事を予感させる。アルバイトが終わる24時以降の時間をよくそのパーティで過ごすようになり、そこで知り合った女の子に誘われてフリーペーパーをつくり始める事になったのは、ちょうど10年前の夏の頃。結局、そのフリーペーパーは長く続かなかったけれど、僕の担当の1ページには、当時住んでいた街に関する5枚の写真を載せ、それにあわせて5つの文章を書いた。5枚の写真は、以前手に入れたPolaroid 580というカメラで撮った。
最近、そのカメラのフィルムが絶滅した。絶滅したと行ってもどこかを探せばまだ見つかるかもしれないし、そのフィルムで撮れる写真に似たものを作る方法もたくさん知っている。でももうあの派手な機械音と一緒に出てくる写真を取り巻くなにかは、昔と比べてずいぶん変わってしまった。
もうなくなりかけている色んなもの。あちらこちらでよく散らかっているものに紛れているもの。そんなもの中から見えなくなっていただけかもしれないなにかを、もう少しの間探したいと思う。もちろん、ただの強がりかもしれないという可能性には、強く目や耳を塞ごうとも思っているし、今では10枚の写真に10の文章を添えることができる友人をたくさん知っている。そして、これから始まるいろんなことが、いつか誰かの10になるといいなとよく思う。
馬場 拓見
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